In a Dream     2023-   (Alternative, Dark Cyanotype)


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サイアノ(シアノ)タイプは1842年にイギリスの天文学者・化学者・数学者のジョン・ハーセル卿(1792-1871)が、高価な銀を使う代わりに鉄塩による写真法を発見したことが元になっています。
露光、現像すると美しいプルシアンブルーの画像が現れ、今もなお世界中の写真家を魅了しています。
ハーセル家と親しかったイギリスの植物学者・写真家のアンナ・アトキンス(1799-1871)による藻のフォトグラム『Photographs of British Algae』をご覧になった方も多いでしょう。
サイアノタイプは安全で、作業に暗室を使わないことから一般向けのワークショップも多く開催されています。
私は、イタリア・シチリアの写真家、Dodo Venetianoにこの応用技法を習いました。きっかけはその前年にフランスで彼のプリントを見た時の衝撃です。そして翌年シチリアに教わりに行ったのです。

「日本で教われるところはないの?」と聞かれ、それはもちろんあるでしょう。
でも、素晴らしかったのです。私は精神性だと思いました。

彼は「サイアノを極めたらなんでもできるぜ」と言います。そして、「青い色は見飽きるんだ」と言い、より深く、濃いサイアノを探求しています。
それは調色(トーニング)によって、画像に含まれる鉄の色を化学変化させていきます。

私は3週間のアーチスト・レジデンスで様々な技法をみっちり教わりました。サイアノタイプは多くの技法に共通する、紙や薬品の扱い方、原理や考え方を理解するのに最適な方法だと思います。
しかしそういう意味では、一般的な短時間のワークショップは多くの基本的な部分が抜けているように感じられます。それは、今後多くの作品やシリーズを制作するつもりなら、「変数」をいかに少なくするかということを強く意識する必要があるということです。

例えば、サイアノタイプは2液を混合するのですが、スポイトで何滴落としていくかを正確に合わせることで、シリーズ(複数枚)での色の違いで失敗することを避けることができます。
ビーカーやブラシは使う前に必ずアルコールで洗うと、水道水による汚染を防ぐことができます。サイアノタイプは簡単なので失敗しにくいとしても、他の技法では大きな失敗につながり、その原因の特定はとても困難で、何日も途方に暮れることになるのです。

今も制作している時に、トレイに指をかけ、ゆっくりとゆすり続けているDodoの姿が浮かびます。
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